- 3-1. 「人が集まる」ことの優位性
パチンコは「人と人とのつながり」を感じさせるものである。遊技者は遊技場へ足を運んで機械を操作し、常連や馴染みの店員、偶然隣に座った人と会話をしながら、ささやかなスリルを味わう。核家族化の進行やインターネットの発達によりコミュニケーションが希薄となった昨今、人が集まり、コミュニケートするリアルな空間の価値は計り知れない。この一点に、パチンコホールの新たなる可能性があるのではないか。
このような視点を獲得すれば、「パチンコホールの地域貢献」というテーマが設定されるのは当然の帰結であろう。人と人とのつながりを大切に、パチンコホールを中心とした地域社会の再構築は、リスクをチャンスに変える新たなる試みとなるであろう。
- 3-2. シルバー人材の活用
日本社会が高齢化の道を歩みはじめて久しいが、第一次ベビーブームに生まれた“団塊の世代”の高齢化に伴い、かつてない速度で高齢化は進行している。この世代の大量退職に伴い、市場が深刻な人材不足に陥ることが懸念されている。しかし、実際には「継続して仕事をしたい」と考えるシニア層は少なくない。パチンコホールとしてもシルバー世代の積極的な雇用を促進することで、社会ニーズと企業利益にマッチしたWIN−WINの関係が築ける。また、高齢者雇用促進を積極的に進めることで、彼らの家族、友人などへの業界イメージ向上のきっかけとすることができ、遊技者としての来店も見込めるだろう。
- 3-3. 母子家庭の働く母親の積極雇用
シニアだけでなく、母子家庭の大黒柱である母親の雇用を推進することは、社会に対して大きな利益をもたらす。女性一人で、働きながら子育てをすることは、しばしば困難を伴う。しかし、まとまった人数の働く母親たちを受け入れることができれば、障害となる課題もクリアできのではないか。子どもが急に発熱した場合でも、同じ境遇の仲間なら「お互いさま」の精神で、スムーズなシフトチェンジも可能だろう。また、子どもを預かる託児所が必要であれば、保育士を雇って託児所を運営してもいい。その託児所を地域にも開放すれば、これも一つの地域貢献となる。このようにパチンコホールが街そのものをデザインしていくこともできるのだ。
- 3-4. ニート・フリーター問題への取り組み
ニート・フリーター問題が新聞の紙面に載らない日はないほどに、若年者雇用問題も日本社会における大きな課題の一つである。私が見る限り、この問題に対して、パチンコホールは既に大きく貢献しているのではないか。社会経験の少ない、もしくは皆無の若年者を採用して職業教育を施していくことは、成熟した社会を形成する重要なステップである。地元の若年者雇用推進に取り組むNPOとの連携を強化するなど、こうした取り組みを自覚的に意識することで、ホールは地域へ対して「人材育成」という大切な役割を果たすことができるだろう。ホール単独では難しいスタッフの質的向上のための研修も、業界団体で合同研修を実施することで高度な教育水準を保つことが可能である。
- 3-5. 遊技者からの寄付金の募集
パチンコホールや業界団体がボランティアやNPOなどの諸団体へ売上金の一部を寄付していることは、店舗やホームページなどでの告知によって広く知られているが、ここではこうした寄付行為への協力を一般景品の選択肢のひとつとして遊技者にも求めてはどうだろうか。災害被害援助だけでなく、選択肢は複数あっていい。不正改造や迷惑メールを防止するための研究費、地域社会に還元できる寄付金など、ホールが抱えている問題や目指している方向を遊技者である客とコミュニケートし、分かち合うツールとして活用できる。ホール経営者の考え方が変われば店員が変わり、ホール全体の空気が変わる。それが実現すれば、ユーザーである遊技者の意識に変化を及ぼさないはずはないのだ。
- 3-6. 地域における真の連帯とは何か
ホールや業界団体が社会への利益還元の一端として各種寄付金の交付を行っていることは先に見た通りである。団体の活動を根底で支える資金提供の重要性は忘れてはならないが、「お金」のつながりだけでなく「人」とつながることがより重要である。ホールスタッフの地域社会への参画を積極的に推奨することで、両者はより深い関係を構築することができる。
- 3-7.地域活性化への多様な取り組み
「地域社会への参画」といっても、その切り口は無数にある。お祭りの運営協力や街の浄化への取り組み、NPOが主催するイベントに参加することも一つの方法である。個人的体験となるが、今年の元旦、自宅近くのパチンコホールの店員が地域住民へ店頭で豚汁を振舞っているところに遭遇した。このように、四季折々の風物詩や食べ物を地域住民と共にたのしむ場を創出することも、地域活性化につながる有効な手段である。
「地域活性化」という切り口で考察すれば、ホール敷地内に多目的スペースを併設し、サークル活動など地域住民の活動のために解放することはどうだろうか。研修や会議など、自社のためにも有効なスペースとして使用でき、パチンコ以外の目的で集まってきた住民がホールに立ち寄ることも期待できる。また、ホールスタッフにこれらのサークル活動に積極的に参加することを推進することにより、福利厚生の充実が実現し、離職率も低下するだろう。多目的スペースのほか、フットサル場やテニスコートなどの運動施設の併設による集客効果も有力な選択肢となり得るだろう。
- 3-8. 複合施設とパチンコホール
様々な年齢層の娯楽ニーズを同時に満たすことができる複合施設の登場は、消費者行動に変化をもたらした。実際に、ショッピングモールの中にパチンコホールを組み入れた複合施設も登場している。ショッピング・映画・アミューズメント・ヘルスケアなどの施設を有する大型複合施設も「店舗の集合体」という意味では、その規模の大小こそあれ商店街と発想は同じである。しかし、「ホールとそれ以外の組み合わせ」による他業種との「事業の複合」が実現すれば、シナジー効果による成長も期待できるだろう。「景品交換」という「出口の複合化」には先行例がある。広島には、獲得したメダルを併設するドンキホーテの商品と交換できるスロット専門店が誕生している。
- 3-9. 地域通貨導入による地元経済の活性化
この手法を一般景品ではなく、特殊景品へスライドさると、どうなるか。「特殊景品=換金」という本流だけでなく、「地域通貨」を導入するアイディアもおもしろい。地域通貨とは法定通貨ではなく、地域やコミュニティー内で流通する通貨であるが、ここでは便宜上、99年に実施された「地域振興券」をイメージしていただきたい。地域経済の活性化、地域の振興を図ることを目的に交付された地域振興券は、一定条件を満たした国民に一人当たり2万円分が配られ、使用に際して「発行元の市町村のみで有効」「使用期限は6ヶ月間」「釣り銭が出ない」といった制約があった。地域通貨に取り組む地元NPOなどと連携し、特殊景品を地域通貨と交換できれば、そのお金は地域に落とされ、地域経済の活性化が促進され、ホールでも使用できる体制を整えればリピーター率も高まるだろう。現金への換金率より多少でも高い設定ができれば遊技者の地域通貨への交換は増えるだろうが、たとえ比率が同じでも地域社会のためを思って地域通貨を選ぶユーザーも多いだろう。経済分野での、ホールを中心とした地域社会の再構築の理想がそこにある。